お仕置きマゾのピアノ教師の告白 ※DVD収録
告白 有馬早智子(仮名)
応接室の秘密
音大に進学して家を離れるまで、私はいつも近所の人や子どもたちから「有馬さんちのお姉ちゃん」と呼ばれていました。小さいときから背が高かったせいか、学年より上に見られることが多く、小学校に上がってからもニックネームはずっと「お姉ちゃん」でした。
弟と妹がいましたが、私とちがって二人はいたずらっ子でしたし、特に末っ子の妹はおてんばで両親を悩ませていました。私の両親は学校の教師で、よその親御さんとくらべると、躾は厳しかったと思います。
ある土曜日のこと、ピアノのお稽古から帰ると応接室の引き戸が閉まっていて、中から父の声が聞こえました。静かな……でもふだん聞いたことのないいかめしい声に、私は思わず足を止めました。
引き戸に耳を寄せると、中には妹がいて、父に叱られているようでした。妹は六歳でしたが、学校の帰りに寄り道をして、段ボールのそりで土手を滑り降りる遊びをして、友だちに怪我をさせてしまったのです。
ふと父の声が止み、お説教が終わったのかと思いましたが、妹はいっこうに出てきません。
それから、シクシクとすすり上げるような妹の泣き声が聞こえてきたのです。驚いて、ゆっくり引き戸を滑らせると片目でのぞけるすき間ができました。
妹はすすり泣きしながら、ソファに座った父の前に行くと、そこにかがんだようでした。私の位置からは父の横顔は見えましたが、妹の姿は見えなくなりました。
そして、それから信じられないことが起きました。父が右手を高く―耳の高さぐらいに振り上げると、ピシャンと音を立てて打ち下ろしたのです。私の位置からは見えないのですが、妹のお尻を叩いていることはまちがいないと思いました。
父は表情も変えずに何度も手を振り下ろし、ピシャリと音がするたびに、妹のうめき声がしました。私は父にも母にも叩かれたことはありません。そんな罰を受けるようなことをしたことはなかったからです。
十回打つとお仕置きは止み、のろのろと立ち上がった妹は、膝まで下ろされたパンツを引き上げ、スカートの上から痛そうにお尻をなでています。
すると、父が言ったのです。
「痛かっただろうに、よく我慢したね。今の気持ちを忘れてはいけないよ。もし、またパパやママが禁止していることをしたくなったら……今日のことを思い出して我慢できるね?」
妹は無言でうなずくと、ワーッと声を上げて父の首根っこにしがみつき、ワアワア泣き出しました。
すると、驚いたことに父は妹の背中にそっと腕を回し、赤ちゃんをなだめるみたいにユサユサと揺さぶりはじめたのです。
思わず目を疑いました。それは、いつもいい子の私がされたことのない折檻でした。罰を受けて、泣いて、あやしてもらえるなんて……。生まれて初めて経験する、不可解な気持ちでいっぱいになり、そっとその場を離れました。
私はお父さんにあんなことをされたことがない……。私には近づくことのできない世界があることを知って、途方もない寂しさを感じていました。
お尻叩きと初潮
大人に叱られるということは恥ずかしいこと、両親や先生に心配をかける悪いことだと思っていました。
それなのに、叱られた妹と父のあいだには、私の知らない温かいものがありました。妹のように、私も父に許されて、抱きしめてもらいたいと思いましたが、いつもいい子の私には起こり得ないことでした。
それなら、せめて父から罰を受けていたときの妹の気持ちが知りたい……。私も妹のように嗚咽をこらえ、痛みをこらえ、最後に泣き出して、そして抱きとめてもらいたい……。
家に誰もいないときを狙って、あの日父が座っていたソファにクッションを置き、その上にうつ伏せになりました。父の太ももに乗せられていると想像して、目を閉じ……スカートをめくって自分の手でお尻を打ちました。
十回打ちましたが、泣くほど痛くはなりません。失望し、淋しく空しい気持ちでいっぱいになり、パンツの上からお尻をなでまわしてみました。
それから私は、なぜか指をパンツの中に入れたのです。最初はヒップ側に、それから前に。
その瞬間、パンツの中に違和感を感じて、そっとパンツを下ろすと小さな赤いシミがついていました。考えてみると、その日は朝からお腹がシクシクしていたのです。
初めての生理でした。四年生になって間もなく、私は母の身長を追い越していたので、
「さっちゃんは大人になるのが早いかも知れないから、お守りのつもりで持っていてね」
と、母が可愛いポーチに入れて渡してくれたサニタリーショーツとナプキンを引き出しから出しました。血のついたパンツはこっそり洗面所で洗って、自分の部屋のクローゼットの中に干しました。
自分のお尻を叩いたことと、生理がはじまったこと――。偶然の一致だけれど、一日に二つの秘密ができ、急に大人になった気がしました。
誇らしいような、でも孤独な気持ちもありました。お尻を叩かれたいと思うなんて、誰にも知られたくない恥ずかしい秘密だと思ったからです。
私は中学でも高校でも、男の子と付き合うことはありませんでした。中学一年生で一七〇センチあり、身長が高すぎて、男子から「デカ女」と呼ばれることがコンプレックスになっていました。女子から慕われることもありましたが、お姉さんとして甘えてきたり、憧れられることに苦痛さえ感じていました。
強くて大きな女と思われている自分が、男性にお仕置き願望を打ち明けるようなことは、一生ないんだろうな……とますます男子を避けるようになっていきました。
折檻オナニー
それでも、音大のピアノ科に合格して東京で一人暮らしをすることになると、彼氏ができました。やさしい男の子で、コンプレックスだらけの私に、
「そんな控えめなところが大好きだよ」
と言ってくれたのです。キスしたり、お互いの家に泊まったり……いろいろな“初めて”を重ねるうちに、あれほどお仕置きにあこがれたことは忘れていきました。
私は子どもだった、幼かったんだ。現実の男性に愛されることを知らなかったから、叩かれたいなんて思ったけど、今は普通になったんだ……そう思うと気が楽になりました。
この続きは、マニア倶楽部2020年5月号をご覧ください。