18歳差のカップルから届いたプレイ報告 ※DVD収録
告白 詩子(PN)
失望の初体験
昔、『ビビビ婚』という言葉がはやっていたそうです。電撃再婚を発表した国民的アイドルが、マスコミから再婚の理由を聞かれて「ビビビと来たから」と答えたとか。
この話を聞いたのは大学の心理学の授業で、その時はウケていましたが、そういうことって本当にあるんだなあと、今はそのアイドルの気持ちがわかる気がしています。
私がビビビと感じたのは、恋愛どころではない、資格試験勉強の真っ最中のことでした。
大学卒業後、私はある県の職員として働いています。将来の昇進のために資格取得が必要だとわかり、休みを返上して図書館通いをしていた時のことです。
私は暗記ものが好きで、その日も時間を決めてタイムレースのように参考書を暗記しまくっていました。
頭の中は条文でいっぱいでしたが、ふと目をさまよわせた時、貸出カウンターにいた男の人の動作に「あれっ?」と思ったのです。
借りた本をたくさん手提げに入れて、その人は図書館の出口に向かっていましたが、カウンターの端に本を一冊置き忘れているのが見えたのです。
私は思わずカウンターに走り寄り、置き忘れの本を手に男性を追いかけていたのです。
「あの、忘れ物です……!」
ふり向いたのは三十代後半から40歳ぐらいの、人の好さそうな男性でした。清潔感こそあるものの、おしゃれではなく、勤務先の役所にいるおじさんたちと雰囲気が似ていました。
ただ、本を渡そうとして驚きました。私と同じ二十代の若手作家が書いた小説で、私が大好きな本だったのです。
「ご親切にありがとうございます。助かりました」
おじさんから見たら私は小娘だと思うのですが、両手で本を受け取って、深々と頭を下げたのです。役所の上司たちとは全然ちがいます。
若者だからとバカにしないで、丁寧に頭を下げるなんてカッコイイですよね。私はこの時ビビビとなってしまったんです。でも、そのビビビという感情が何なのかわかったのは、ずっと後のことでした。
その本は女装に憑りつかれている若い男性の話で、女装に興味があるわけではないのですが、好きな本でした。私は平凡な女ですが、普通の男女の関係をいいと思えずに悩んでいたからかも知れません。
大学時代、同じ学年の彼氏がいました。私の初めての相手はその彼氏です。
好きな人とのはじめてのセックス――。彼が触れてくれるだけで、髪も肌も燃えあがるように感じました。
それなのに、終わってみると、男女の営みってこんなものなの?……と淋しい気持ちになったのです。
誰よりも優しい彼氏なのに、セックスの時間は、出すことで頭がいっぱいみたいでした。
一人で興奮して、出して、
「詩子は? いけた?」
と聞かれた時、失望で目の前が真っ暗になりました。私は初めてで、それまでに経験したことのない痛みは腰骨が割れるんじゃないかと思うほどだったのです。
彼氏の気分を壊したら悪いと思って、歯を食いしばってがまんしていたのに、いけたかなんて……。
もっと私を見てほしかったです。大切な、初めてのあれだったのに……。
これではオナニーと同じと思いましたが、言いませんでした。男の子ってそんなものなのかな、と思って、それからも普通に付き合っていました。
男性にはショックかも知れませんが、若い女の子にはよくあることだと思います。別にいけなくたっていいんです。好きな人と一つにつながっているだけでいい、と思うので、私はだんだんいったふりをするようになりました。
二度目の偶然
ある日曜日の夕方、いつものように図書館での勉強を終え、寒くなったなあと肩をすぼめて歩き出した時のことです。
背後から走る足音が聞こえてきて、私は思わず道の端に寄って振り返りました。
「待って、待ってください!」
あれ、この人誰だっけ……見覚えがあるのだけれど……? 秋の夕暮れなのに額に汗を浮かべ、手には紙を持ったおじさんが一心に走ってきます。
「これ、コピー機に……忘れたでしょう?」
その声に、いつかの本を忘れた男性だと気がつきました。
「ごめんなさい、走ったから紙が折れてしまった」
受け取った紙は資格試験の受験票で、私はコピーを取ったまま原稿台に忘れてきてしまったのでした。本名に住所、メールアドレス、携帯番号、生年月日――個人情報満載の重要な書類です。
悪意ある人に拾われたら大変でした。
「わざわざ届けてくださって、ありがとうございます……何てお礼を言ったらいいか……」
「よかったです、あなたの顔を覚えていたから。先日はありがとうございました」
本を届けてあげた相手から、こんどは私が受験票を届けてもらったのです。
こんな偶然ってあるんだ、とおもしろくなって、駅まで話しながら歩きました。
資格試験や本のこと……何のしがらみもない間柄なので自由に話ができて、気がついたら駅でした。職場の男性ともちがう、学生時代の彼氏ともちがう、偶然知り合った同士の気安さで会話がはずみ、もう少し話したいなと思いました。
この日から、何となく図書館で落ち合い、いっしょに夕飯を食べて帰るようになったのです。ビビビの人――佐々木さんを男性として意識したのは資格試験の日のことでした。
この続きは、マニア倶楽部2020年9月号をご覧ください。